会話は得てしてまわるもの?

愚問愚答
黒 「…………」
赤 「何してるんですか」
黒 「いやあ、臭いがとれなくって……」
赤 「タバコ? ニンニク?」
黒 「宗教」
赤 「宗教臭ってそんなんでとれるものですか」
黒 「いや、全然」
赤 「違う方法ないんですか」
黒 「まあ、どうやったってとれないだろうし」
赤 「とれないと分かってて、とろうとしてるんですか」
黒 「足掻いておこうと思って」
赤 「はあ」
黒 「一応さ“宗教”ってのも表現の一部なんだから別に問題はないんだけどねえ。ほら、“動き”が問題じゃん」
赤 「まあ、そうっすね。……でも、それを軸に据えると問題になっちゃいますね」
黒 「そうなんだよねえ、軸が絡んでくるとね」
赤 「宗教に軸を据えたらどうなるんでしょうかね」
黒 「どうにもならないんじゃない? 水面下が変わるだけで、表面はこのまま」
赤 「じゃあ水面下はどんな風に変わるんでしょうかね」
黒 「あー、変わらなそう。というか、水面下のことはわからんから何とも言えないよ。自分まだ死んだことないし」
赤 「“まだ”ってことはいずれ死ぬ」
黒 「そりゃあ死ぬさ」
赤 「なんか今の口調だと、死んだあとにその経験を語れるという前提を感じたんですが。ついでに、放り投げた感じも」
黒 「生きてる限り、自分の自我が完全に無くなっている状態を想像するのは困難だと思うんだ。もしかしたら自分だけかもしれないけど。君はどうよ」
赤 「私はあなただから聞いても無意味です」
黒 「失敬。まあ、なんだ。理由は省くけど、その語っている視点についてはそこまで敏感に反応しなくてもいいと思う。反応するとしたら、それは“語ることができないんだから何も言うな”ってところか」
赤 「でも、語ることができないにしても、語っているそれが間違えではないとも言えますよね」
黒 「この場合、“語れない”っていうのは二つの意味があるのかもしれない。一つはそれ自身を語れない。もう一つはそれらを」
赤 「語り尽くせない」
黒 「もっと適切な表現がほしいところだよね」
赤 「語彙力って大切だとつくづく思います」
黒 「本当に。でもそれって、殺し方が増えるってことなんだけれどもね」
赤 「それを言っちゃあ……。ところで宗教臭はいかがなもんですか」
黒 「変わらないよ」
赤 「これはそのままにしておく他に何か方法はないんですか」
黒 「軸をずらすという手があることにはあるけど、まあ、すぐに戻るだろうね。それに、軸も部品にすぎない」
赤 「いっそのこと宗教に傾倒するとか」
黒 「やだよ。やっぱり宗教は一部分にすぎないもん」
赤 「じゃあどうするんですか」
黒 「仕方ないから足掻くんだよ」
赤 「はあ」